2011/03/07

戦争の回避は難しかったのか・・・

 NHKでは4回にわたって、「日本人はなぜ戦争へと向かったか」を取り上げていました。なかなか興味深く、難しい問題で、簡単には語り尽くせないとテーマ。番組に登場していた研究者が「日米開戦史」専攻ということからも、深く研究するに値するテーマと思います。
 最終回の今日は、リーダーたちはなぜ開戦をとめられなかったのか、というお話しでした。近衛首相以下連絡会議のメンバーはみな戦争すれば負けると思っていたというのが、深刻です。陸軍大臣(後に総理大臣)の東条英機ですら、勝てないことを知っていた。なぜなら日米間の戦力の格差は歴然としていたからです。もっとも大きいのは石油で、主としてアメリカからの輸入に頼っていたわけですから、なおのことです。それなのに・・・、負けるとわかっていた戦争を回避できないメカニズムが働くというわけですね。
 最大の問題は、戦争への深入りです。この場合、日本は日中戦争に思い切り投入していました。多くの命や費用がつぎ込まれてしまうと後に引けなくなる。現場からはもっと戦費を注いでくれれば勝てる、仲間の命を無駄にはできない、といった心理が働くでしょうし、国民は失政を許さないでしょう。リーダーは部下や社会といったステークホルダーの圧力を感じるはずです。事実、戦前はリーダーが暗殺されました。欧州で東西が統合されたとき、東独、ルーマニア等、リーダーは裁判にかけられて、ろくな死に方をしていません。最近では中近東で国家元首が国民に追われる事態になっています。そういう結末を見ていれば、某国の独裁者もおいそれとは国を開放できませんよねえ。

 深入りを避けられればよいのかもしれませんが、弱いコミットメントを許容するようでは、難しい状況でリーダーシップは機能しないでしょう。つまり、目一杯東に振って、西にひきづり戻すようなもの。これは大変な影響力です。
 まず、現実を見なければなりません。厳しい現実かもしれませんが、負けることを理解していなければ。そして、部下たちにもその現実を見せなければなりません。
 しかし、部下が負けることを受け入れるかというと、それは簡単じゃないですよ。部下は思いっきり否定的なカレンシーを受け取っているのです。「負けるはずはない」というのは、現場で頑張っているほど思いたいはず。リーダーは自分の非を認め、昔なら切腹ですよね。それで許してもらえれば、ラッキーというところでしょう。日頃から、小さなカレンシーを渡して信頼関係を築くことがせいぜいでしょう。ナポレオンは、配下にまめに声をかけたそうです。麻生太郎氏の元部下という方に伺ったお話ですが、実に細やかに声をかけられるので、部下は感激したといっていました(その麻生さんにとっても厳しい今のリーダーの役割かもしれません)。

 今夜は、小さなカレンシーの積み上げで信頼関係を築く、としておきましょう。(つづく)

2011/02/23

負けて勝つ

 大阪出張の帰りに、京都に立ち寄り、東寺の山田忍良師にお目にかかりました。山田師は毎週金曜朝6時45分から東寺回向堂で「金曜法話」を続けられています。いただいたレジュメによると、先週18日の法話のテーマは「負けて勝つ」でした。若き日の師が、先輩の教師から「相手を打ち負かすより、負けて至らなかった点を自覚できれば、はるかに大きな収穫を得られる。逆に勝ち進んでもやがてはその害がおよぶのではないか」と言われ生き方を変えた、と書かれています。「負けて勝つ」という感覚、あるいは真理と言ってもいいと思いますが、私たち多かれ少なかれ体験していることではないでしょうか。リスクを冒してみたものの、やはり負ける。でも負けたことから多くを学べます。影響力の法則で考えれば、この学びをカレンシーがえられたと考えてみることができるわけです。
 さらに人間関係で考えると、相手に「言い負かせた」「譲ってもらった」という感覚が残るかもしれません。負けることで相手にカレンシーを渡していることもあるわけです。言い負かした相手が、次回味方になってくれかもしれません。

 折しも大阪では名門企業で、素晴らしい人材(主として技術者)を前にお話しさせていただきました。みなさん素直で純粋、まじめな方たちでした。さすが、日本の優秀な人材を組織化した企業である、と心から感心しました。その会社が長きにわたって発展してこられたのは、この人材によるところが大きい、と実感します。
 ところが一般的には、優秀な人材ゆえに、影響力が発揮されなくなることがあります。それは優秀な人が「負けるが勝ち」を苦手とするところがあるからです。総じて優秀な方は、学校、会社でずっと勝ち組にいたワケですから、知らず知らずのうちに、相手の上手に立とうとしてしまう。理論で論破したり、知識で圧倒するのが成功パターンになっています。彼らの言うことは確かに正しいのですが、相手には嫌な気持ちが残ってしまうこともしばしば。そうして勝ち進んで管理職になっても、部下や他部門からは、マイナスのカレンシーを受け取ってきた、という想いがあるので、協力したくない。結果的に、まわりが動かず目標達成に黄信号がともってしまう。そういう上司、少なくないでしょう?一方で影響力のある管理職は、控えめですらあることが多いですよ。
 
 今勝つのが本当の目標か、10年20年後に大きな仕事を成し遂げるのが本当の目標か、この判断は難しいですが、よく考えてみるべきでしょう。
 「負けて勝つ」には真実があると思います。

2011/02/20

ラオ教授の・・

 「ラオ教授の幸福論」(マグローヒル)を読み終えました。ラオ氏はコロンビア大学ビジネススクールでマーケティングを教えていたらしい・・・。マーケティングから幸福論という転身を最初は不可解と思いましたが、いずれも消費者の利益に資すると思えば、あながち大外れではないのかも。
 いくつもの示唆を得られる本で、大学で人気講義だったのはわかる気がします。ひとことで言えば、幸福も不幸も原因は自分にあるということ。例えば学生の多くは、就職できないのは景気が悪いからと思っています。でも現実は就職できている学生が少なくないのだから、景気のせいばかりにはできません。自分の考え方によるところも大きいわけです。このような「原因自分説」は珍しくもないとはいえ、実は読み手が抵抗を感じるところです。不幸の原因は自分の外(上司や会社や景気の悪さ、はたまた強欲な妻)にあると考えたいですからね。本書の優れているのは、読者の抵抗にも怯むことなく、外に原因を求めても救われない、と繰り返しているところです。目標を決めたら結果を追わないで、自分にできること、すなわちプロセスに投資せよ、というのが一例です。結果は神のみぞ知るなんですよ。
 これはカウンセラーやコーチと同じスタンスと言えます。私が國分康孝先生とアルバート・エリス先生から学んだ論理療法と同じ。現在のニューヨークのような大都会(コロンビアとエリス研究所はニューヨークにある)では欠かせないアプローチかも。
 私が注目したのは、俳優の生活ではなく役柄生きていると思え、というくだり。なるほど自己を相対化できれば、その分問題を修正できます。これもカウンセリングと同じです。この本は学生のためのサイコエデュケーションにもいいと思いました。
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繁栄のワケは

 マット・リドレーの『繁栄』(早川書房)をようやく読み終わりました。読み始めてから途中身内の病気やらなんやらで、2ヶ月近くかかってしまった。この本読み始めたのは、「繁栄の決め手は交換」という世界観で、生物学者が何と書くか興味があったから。もちろんおもしろかった。
 人間だけがなぜ飛躍的な繁栄を遂げたのか、というのが本書のテーマ。簡単に言えば、他の動物も交換するが、人間だけが他の物を交換できる。たとえば、他の動物や虫さえも同じ餌を交換する。しかし人間は食物と衣類を交換したり、ここに貨幣が入ってきたりして、格段に複雑な交換ができるようになった。その結果分業が進み、圧倒的に効率よい生活が送れる湯尾になった。さらに、アイデアの交換によって様々な問題を解決することができたのだというわけ。この「他の物を交換できるようになった」というのがおもしろいところです。同じぐらいの価値の交換を可能にする、信用取引ができるようになったのだから。もっとも、これには試行錯誤があるわけですね。よいときばかりではない。でも歴史をたどると大きな困難に直面し一時的に人口が減っても、人類は問題を解決してきただろう、という展開です。
 私の関心は、分業が進んで複雑になると人は互いにわかり合えなくなるというジレンマを、影響力の法則で乗り越えようというところにあります。よって、その歴史的な裏付けがとれたような感じ。ますます影響力のテーマに取り組もうと意欲満々です。
 来週は、製品開発などに関わるある役割のみなさんに対して、影響力の1日セミナーを実施してきます。ここでも参加者のみなさんの影響力が高まれば、組織の困難を乗り越え組織は複雑さに耐え、より発展していくでしょう。