2011/06/06

しらすの損失と藤沢武夫

 もうしばらく前のことになります。ホンダがしらすで損失、という記事がありました。「え?どうして?」と思った方も多いのでは?本田技研の子会社ホンダトレーディングという会社、ホンダ関連の専門商社です。本社は八重洲口にあり、ホンダ東京進出時の場所。ホンダグループの名門企業と思っていました。それが、やはり事業を広げたかったらしいのですが、海産物に手を出していたのですね。しらす相場で、150億円もの損失を計上したと。

 この事件のことは忘れていたのですが、今日、ジムで自転車をこぎながら、藤沢武夫「経営に終わりはない」(文春文庫)を読んでいたところ、次の記述を見つけたので思い出しましたのでした。いわく「どんな場合にも本業以外で儲けることはやりませんでした。個人でもやりません。・・・自分の身のまわりはいつもきれいにしている。だから、みんながついてきてくれる。つまり私が何をいっても安心していられるのは、・・・私が苦しむときに、みんなも苦しんでくれといえます」

 藤沢氏は自分が私利私欲で動いたら、部下に厳しいことをいえなくなる。だから自分は私欲では動かない、といっているんですね。やはりすごいなあ。いざ、部下から引き出したいというときに、借りがあっては動かない。部下を動かすため、カレンシーの交換を読み切り行動しているところがすごい。感心しました。

 もう一点。逆に藤沢氏が詰めていた八重洲のビルで、今回の事件は起こってしまった。藤沢氏の時代から50年。会社の伝統とか思想をつなげていくのは容易ではないなと思います。事件を起こした課長(すでに懲戒解雇)は、他社からの転職組。無理したんでしょう。上司も海産物の相場なんかわからないから自由にやらせたんだと思います。不正が起こりやすいですよね。でもこういう本来有能な人材にこそ、影響力を発揮して動かさなければなりません。優秀な人ほど自分の力を試してみたくなりますから、コンプライアンス上の問題が起きてしまいがちです。

 今期の純利益で、ホンダがトヨタNTTグループを抜いて最高額になったという報道もありました。150億円ぐらいの損失は物ともしないという意味で、もう一度感心しました。

2011/06/05

カーナビ

 私は新卒で自動車業界に飛び込んで以来、目的地に行く前に地図を頭にたたき込み、あとはイメージに従ってドライブする、という方法で二十数年やってきました。でもとうとう、初めてのカーナビ、正式にはPNDと呼ばれるアメリカの軽便カーナビを購入しました。Garmin社のnuviと呼ばれるこの機種は、2万円少々で手に入る他より安価なものですが、海外でも使える優れもの。毎日どこを走行したか、その軌跡を記録でき、これをクラウドに残しておける(はず)。歩行でも使えますから、旅行でも活躍してくれると期待したわけです。

 カーナビを使ってみると、やはり運転スタイルは変わりました。まず地図を見なくなった。行く先でナビが教えてくれるでしょう?それから、いちいち右へ、左へとナビの指示を聞くことになりました。自分が慣れたルート以外を指示してくることもあるのです。違和感を感じながら、思い切って機械のいわれるがままになってみる。と、自分で考え判断しなくなりますね。こうして、生活は効率化が進んでいくのでしょうが、実はナビを使うと運転が楽しくないんですよね。なぜなんでしょうか?これは私だけですか?

 考えられる理由。人の言いなりになるのが好きじゃないから、考えて判断する一種のゲームが楽しみだった・・・。これ、優秀な部下が来ると部下の話を聞かなければならない上司のジレンマに近いなあ。研修の参加者で部下や後輩の話など聞きたくない、という人多いんですよね。自分が専門家でいたいということです。私の仕事のうえでの役割は、部下や後輩を抱えているのに、自分一人で何とかするのをあきらめさせること。言い換えれば、上司としての役割を受け入れて、覚悟を決めさせることです。でも、専門家として成功してきた人ほど、手放せないものです。たとえば、トップセールスマンだった人が、部下がみんな自分より劣っていることにいらいらして、自分が先頭に立って売り歩く。結果部下が育たない、のような話です。多いと思いますよ。現実には、レシプロシティの原則通り、部下の話を聞いた方が部下は上司のいうことを聴くものです。聞いてもらった、という感覚がカレンシーになるからです。

 しばらくナビは試行錯誤です。とにかく優秀で、数メートル範囲の誤差しかないし、速度も正確。ゼンリンの地図も信頼できる。大いに気に入っています。一方ナビが具合悪いのは、こちらがナビの指示に従っても決して感謝しないことでしょう。いざとなったら無視、という戦術を学ぶまでいらいらしそう。ナビ程度かそれ以下の部下を持つ上司には同情します。どうか「影響力の法則ー現代組織を生き抜くバイブル」第9章をお読みください。