2010/11/14

叶匠壽庵

 叶匠壽庵をしったのは、叶匠壽庵をモデルにしたビデオ「にんげんだもの」を観たのがきっかけでした。22年前のことです。「にんげんだもの」は当時私がお世話になっていた会社の社長安森寿朗氏とイエローハットの創業者鍵山秀三郎氏が企画してつくった、商人の心を描いたビデオです。たぶん、社員研修で見せられたのでしょう。和菓子店の若い女性店員が、お客のために心を尽くした仕事をしていく。いろいろな葛藤を乗り越えて、それでも、顧客本位とはなにかを実践し、学んでいく、そんな姿を描いた泣かせるビデオです。20年心にとめていたものを、3年ほど前に思い出して購入し、今は手元に置いています。

 この和菓子店が、大津に本社のある叶匠壽庵と言われています。ビデオもさることながら、私のお菓子の個人的なベストは、叶匠壽庵の「あも」です。今日、その本社を訪ねることができました。大津の郊外の山のなか、本当に山なのです。その中の古民家を活かしながら、店を営業しています。もっとも叶匠壽庵自体は、全国の百貨店に出店する大手の和菓子店です。隣接する工場は近代的なものですし、古民家といえども庭やインテリアは実に手入れされ美しい。そして、里山には遊歩道が整備され、訪れる人は季節の花を愛でることができる。柚子と梅の林も見事です。

 ここで、2人の従業員と会いました。一人は、私たちの質問に熱心に応えてくれた女性でした。この人は本当に叶匠壽庵が好きなのだろうと思わせる熱心さで、ひとつひとつの商品を説明してくれました。実は、これと似た体験を、京都の百貨店でしたことがあります。でも、本当に商品をよく知っているので、これはビデオの主人公かもしれないと思い、顔が主人公に似ているかも、とおもってから、ビデオは俳優だったことを思い出し、苦笑したほどでした。
 そしてもうひとりは、駐車場のおじさんです。本当に駐車場のおじさん、おじいさんと言っていいかもしれないお年の方です。帰り道を訪ね、私たちが千葉から来たと知ると、「気をつけて、また来てください」と別れたのですが、その後、クルマを出口に向かわせると、駐車場の向こうから、その方が走って来るではありませんか。本当に走ってきたのです。そして私たちをとめました。何事かと、窓を開けると、これをみろという。私が撮った写真ですと。なんですか?これは、ちょうど門のところ、この季節11月半ばから12月半ばまで、西日が差す時間になると、門の脇にある瓶に西日が反射して、門に映る、きれいだろう、と言うのです。今日はあいにくの曇り空だったから、残念だったね。またそうそうは来られないだろうから、この写真を持っていけ、と言うのですよ。私は驚きました。驚いて何があったのか分からなかったぐらいです。そして、礼を言ってその場を辞しました。

 こんなこと、会社のマニュアルにあるわけがありません。たぶん、あのおじさんが自分で考えてやっているんだと思います。駐車場係がどれほどの給料をもらっているか知りませんが、どんな契約で働いているのか知りませんが、これがサービスというものじゃないでしょうか。実は、この人は社長なのじゃないかと思ったのです。社長がお忍び?で駐車場係をやっている、なんていいじゃないですか。それで、インターネットで社長の顔を探したところ、社長芝田清邦氏は駐車場係とは別人でした。ということは、やはりおそらくアルバイトの駐車場のおじさんが、こんなサービスができるなんて!この会社はどうなっているんだろう。感動した私は、とにかく事故無く家に帰ろう、そしてこれでお菓子は「あも」だけでよい、という気になっったのです。まあ、現実には他のお菓子も買うでしょうが、でも人に会うときかならず「あも」をもって、この話をするでしょう。ちょうどビデオのお客が主人公から受けたサービスに匹敵する体験を私はさせてもらったというわけです。

 帰り道は、本当に楽しいものでした。その途中、別の体験をしました。別の教材になっているあるレストランに寄ろうかと思って電話したのです。しかし、営業時間の狭間の休憩時間になってしまうのであけられないのです、ととても残念そうに応答されました。それで、一度は納得して受話器を置いたのですが(本当は携帯からですから、ボタンを押しただけ)、こちらが高速を飛ばして来たと知っての対応です。やはり何とも釈然としません。まして、その前に叶匠壽庵での体験があります。う〜んなんだろうか。思い巡らせながら、果たして、このような応対は、サービスの善し悪しではなく、ビジネスの根幹、あるいはその人の仕事のミッション(使命)によるものだ、と思い至りました。

 すなわち、「お客第一」を掲げるのは誰でもできるが、実際にその道を生きているかどうかが本当は問われるのであって、使命とは頭でひねり出すものではない。行動で示されるものだということです。京都で西本願寺を訪ね、親鸞聖人が日々生きる姿勢を説かれたことに触れました。毎日の生活、生きる姿勢が、自分を磨くカギである。その点で、ちょっとでも自分優先の態度をとってしまえば、使命は崩れ去ってしまう。電話の相手は、その点ちょっと至らなかったのかもしれません。しかし、一介の駐車場のおじさんが、商人の心、ミッションを生きているのです。やはりこれは単にサービスでなく、ビジネスであり、ミッションであり、仏道であると。

 こうして、今日も我が身を振り返り、恥じ入り、もっと前向きに取り組まなければ、と自らを叱咤激励した次第です。
 いい一日でした。

 叶匠壽庵 http://www.kanou.com/
 にんげんだもの http://tenbinnouta.com/

2010/10/23

若者の絶望

 NHKで「ミドルエイジクライシス」という番組を観ています。ミドルというより若い世代、みんな苦しんでいます。

 今期の授業で学生が「日本から脱出しなければならないから、外国語を学ぶ」といっていたのは、印象的でした。こうはっきり言う学生はいなかったけれども、いよいよ来たなあという感じ。でも、女性はこういって外向きで元気と言えるかもしれません。男子学生とも話してみたい。

 若者が希望と現実感を持って生きられるように、私たちの世代が手をさしのべないと。

2010/09/21

就職講座への違和感

 ニュースで雇用の問題を取り上げています。就職講座で既卒者の若者にビジネスマナーを教えています。

 これでいいんでしょうか?

 学生の本分は研究でしょう?勉強と言ってもいい。勉強しているというのは、分からないことに向き合う苦労しているということ。私は週1回大学に行ってキャリア講座を持たせていただいていますが、勉強している学生と、そうでない学生はだいたいわかります。勉強している学生は、問題意識があるから気迫を感じます。この気迫を採用側は見ていますよね。採用難なのかもしれませんが、採用されている人はされている。

 もちろん、力がある人が発見されていない現実もあり、残念に思っています。しかし、分からないことに向き合ってこなかった人がビジネスマナーなど学んでいることが、問題の本質の気がします。世界各国の若者が必死に勉強しているのに、遊んでいる学生は働く場所が無くなっていく。世界で競争なんじゃないか。そこで表面取り繕ったら、表面で生きていると思われて、裏目に出ると思うんだけれども。どうなんでしょう。

 繰り返しますが、若者の就職難を残念に思いますし、気の毒に思います。でも、若者自身と彼らを教育する側が、ビジネスマナーでなんとなるという考えを改めないと、この状況はしばらく続くでしょう。

 では、勉強してこなかった若者はどうするか。いまからでも、何でも難しいことに飛び込んでみるんじゃないか。われわれは、彼らを励ましていきたいと思います。

2010/09/20

自動車メーカーの心理学者

 日本心理学会大会に来ています。大阪は暑いです(汗)

 安全心理学と自動車の研究開発のシンポジウムはおもしろかった。日本自動車研究所などの研究所、メーカーの研究開発部門の研究者がそれぞれの取り組みを話されました。みなさん持ち時間を越えて話すので大幅に時間オーバー。みなさんの熱意を感じます。一言で言えば、ドライバーの認知心理学的、神経生理学的反応を理解し、自動車技術にフィードバックするというもの。たとえば、居眠り運転や出会い頭事故、高齢ドライバーへの対応がテーマのようです。自動車メーカーで心理学が活躍しているのに感心しました。

 うーん、会社によっても異なりますが、新しいデバイスで事故を減らそうというとき、どういう自動車にしたいのか、という理念が見えてこなくて、技術突出という気もしました。案の定、指定討論者からその点を突っ込まれ、自動車を操縦することの楽しみなど無視してよいのか、などと言われていました。すべて自動操縦になったら、クルマでなくてもいいですからね。個人的には、マツダにはXoom Zoom(自動車の楽しみを示すマツダのシンボル。パワーポイントの背景にもなっていました)を感じたのですが、彼だけが工学出身というのもなんとも言えないところ。心理学者はもっとクルマを知った方がいいのかも。

 その点、ヤマハの大本先生は自らバイクでテストコースに出て実験しており、さすがだなあ、と思いました。帰りのモノレールでばったりお目にかかって、少しお話しし、この方は社内で自分の立場をよく売り込んでいると思いました。社内に心理学者は一人だそうです。機械の世界で、きわめてマイノリティじゃないですか。そんななか、自分を活かすには、相手の世界に飛び込むしかないと思います。大本博士は自分でバイクも乗るし、船舶免許も持っていて実験していると笑っていました。これがカレンシーとなって、機械屋さんを動かせるんだと思います。

 特殊技術を持っている人を組織はどれだけ活かせるか。一方本人も自分を活かすことを必死で考えてほしいところ。研究者にも影響力の法則を活かしてほしいですね。